黒き藥師と久遠の花【完】
「分かった、すぐに行く。みなもは俺が必ず助けるから、君はボリスと一緒に裏町から逃げてくれ」

 ギョッとなって、ボリスがこちらを振り向く。

「ちょっと待てよ、レオニード。お前一人だけで殴り込む気なのか? すぐ応援を呼びに行くから――」

「悪いが待っていられる状況じゃない。それに今すぐ俺が突入しても、毒で連中は弱っているはずだ」

 恐らくクリスタを巻き込まないために、今までは使う毒を制限していたはず。
 その彼女が脱出したとなれば、遠慮なく内部に毒を流すことができる。

 事情を知るボリスは、みなもが毒を使ったと聞いても驚かない。
 ただ、困ったように眉根を寄せ、額を押さえた。

「だとしたら、仲間を呼んでもみんな倒れるじゃないか。レオニードだって、毒にやられちゃうよ」

「俺は専用の中和剤があるから問題ない。それに応援が到着する頃には、みなもと合流して流した毒を中和させておく」

 みなもが使う毒をすべて無効化できるよう、特別に調合した中和剤。
 いざという時のために、いつも持っていて欲しい言われて持ち歩いていたが……。
 まさか、もう使うことになるとは思いもしなかった。

 レオニードは服のポケットに忍ばせてあった小瓶を取り出し、勢いよく液体を口へ流し込む。

 喉を動かした瞬間に走り出そうとした時。
 クリスタが「待って」と、こちらの袖を引っ張った。

「みなもさんから伝言よ。キリっていう男は協力者だから、もし彼と会ったら共闘して欲しいって。室内でもフードを被って顔を見せない人だから、会えば分かるわ」

 ……聞くからに不審そうな男だ。警戒心の強いみなもが、そんな相手を容易に信用するとは思えない。
 それに彼が協力者だというなら、さっき渡された手紙を書いた人間の可能性が高い。
 この混乱を望んで起こした人物が――。

 彼女の言葉の裏には、別の意味が隠れているのだろう。
 その男を見つけたら、行動を共にしながら見張れ、と。

 短く「分かった」と答えると、素早くボリスに目配せする。
 彼が頷いたのを合図に、レオニードは開きっぱなしの裏口から建物内へ駆け込んだ。
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