黒き藥師と久遠の花【完】
 一瞬、頭の中が混乱する。しかしすぐに考えを切り替えた。

(まずはコイツらをどうにかしないと)

 こちらに気づいた男たちが、怒りの形相で向かってくる。

 距離が縮まれば毒を与えられるが、完全に麻痺するまで間がある。
 それまで自分の身を守らなければ……。

 みなもは手にしていた毒の刃を構え、鋭くなった目で彼らを見据えた。
 
 男たちが目前まで迫った時、彼らの表情が一様に歪む。

「な、何だ? 力が、入らない……」

「原因はアイツか? 妙な真似しやがって」

 見る見るうちに男たちの動きが鈍くなる。
 それでも倒れないよう壁に手をつきながら、こちらへ向かってきた。

 一定の距離を確保しながら、みなもは後退する。
 このまま毒の香気を浴びせ続ければ、間もなく彼らも床へ伏す。
 こちらの体が本調子ではない以上、できれば接触は避けたかった。

 前を見据えたまま、足を運んでいく。すると――。

 ――ぐらり。
 不意に目眩がして体がよろめく。
 堪え切れず足元が崩れ、みなもは壁に肩を打ち付けながら座り込んだ。

(ヤバい、逃げ切れない……仕方ないな、作戦変更だ)

 片膝を立て、足に力をためていく。

(連中がこの角から出てきた瞬間、懐に潜り込んで斬りつけてやる)

 毒で思うように体が動かないのは彼らも同じ。
 刃がかすらなくても、十分に隙を作れる。
 
 勝算はある。が、確実ではない。
 急に手の汗ばみが気になり、言い様のない不安に胸が騒いだ。

 角から、先頭の男の頭が見えた。
 みなもは力を振り絞り、床を蹴り出そうとした。

 その瞬間――。

 ドンッ、と鈍い音と共に、男が前へ飛ぶ。
 そのまま彼は体を突き当りの壁にぶつけ、床に横たわった。

(今度は何が起きているんだ?!)

 ぎょっとなって目を丸くしていると、角の向こうから立て続けに低く殴打する音が二回、そしてその場に崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 刹那の静寂の後。
 ギッ、ギッ、と誰かがこちらへ歩いてくる音がした。

 敵か、それとも味方か。
 気は抜けないと、みなもは息を呑んだ。

 角から出てきたのは長身の男だった。
 外は日が沈みかけて辺りは薄暗く、彼の顔はよく分からない。

 しかし、見覚えのある体躯と雰囲気で、すぐに誰なのかが分かった。
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