黒き藥師と久遠の花【完】
「みなも、大丈夫か?!」

 こちらに気づいて、彼がすぐに駆けつける。
 間近になった顔に、思わずみなもの表情がゆるんだ。

「うん、俺は大丈夫。……来てくれると思ってたよ、レオニード」

 今日の昼までは一緒に居たのに、何だか久しぶりに会ったような気がする。
 奪われた物を取り返すまで気は抜けないが、レオニードと合流できた事が心強かった。

 レオニードはしゃがみ込むと、みなもの頬へ手を添える。
 彼の目は安堵したと言うよりも、悲しげに見えた。

「クリスタから話は聞いている。猛毒を口にするなんて……体は辛くないのか?」

「正直なところ、目眩が酷くて吐き気がするよ。でも命に別状はないから――」

 どうせ毒では死なない体。クリスタのためを思えば、これぐらい大した事はない。
 だから心配しなくても大丈夫。

 そう伝えたくてみなもが微笑みかけようとした時。
 頬に置いていた手を肩へ移し、レオニードがグッと抱き寄せた。

「……君に無茶をさせる前に、駆けつけられなくて済まなかった」

 自然と彼の胸へ、みなもの頬と耳が当たる。
 ここへ来るまで、ずっと休みなく走ってきたのだろう。体の熱と共に荒い息遣いが聞こえてくる。

 またレオニードを心配させてしまった。
 申し訳なくて胸奥がチクリと痛んだが、それ以上に会えた事が嬉しかった。

 しばらくこのままでいたい気持ちを堪え、みなもはレオニードを見上げた。

「レオニード、時間がないんだ。疲れているところ悪いけど、一緒に奪われた物を取り返して欲しい」

「ああ。ついさっきキリという男から、毒の中和剤と引き換えに所在を教えてもらった。賊を逃がす前に確保しよう」

 なるほど、だからキリには毒が効かなかったのか。
 頭に引っかかっていた事が分かって得心はいったが、胸にもやもやとしたものが残る。

(中和剤を得るためにレオニードと接触したのか。本当に抜け目のないヤツだ)

 毒を気にせず動けるとなれば、さぞ目的も果たしやすくなるだろう。
 いいように使われている気がして、正直面白くなかった。

 気を取り直して、みなもは立ち上がろうと足に力を入れる。思いのほか自分の体を重く感じる。

 しかし、それはほんの一瞬だけ。
 動きに気づいたレオニードが引っ張ってくれたお陰で、その場に立つ事ができた。
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