黒き藥師と久遠の花【完】
「キリはどこにあるって言ってたの?」

「三階へ上がってすぐの、首領の部屋に隠してあるらしい。……あの男の言う事を信じても良いのか迷うところだが――」

 レオニードが眉間にシワを寄せ、低く唸る。
 困惑する気持ちは良く分かる。ずっと自分も考えていた事だ。

 みなもは小さく肩をすくめると、レオニードの腕をポンッと叩いた。

「連中を逃がす訳にはいかないからね。本当にあっても無くても、そこへ行くのは避けられないよ」

 特に連中の首領――ゲイルは必ず捕らえたい。
 逃せば再び大きな悪事を働くだろうし、こちらの住処を探し出して襲撃してくるかもしれない。下手をすればボリスやクリスタ、ゾーヤも襲われかねない。

 やっと手に入れた平穏な日々を、壊されたくなかった。

 互いに視線を重ねて頷き合うと、みなもは小走りに階段へと向かう。その後をレオニードが背後を警戒しながらついてきた。

 一階から二階へ上がる途中、数人の慌ただしい足音が近づいてくる。
 みなもが刃を構えようとした時、レオニードがその腕を掴んだ。

「俺が相手をする。少し待っていてくれ」

 こちらの返事を待たずに、レオニードが隣をすり抜けて前に出る。
 その手には彼の愛剣が握られていた。が、何故か鞘に入ったままだった。

「レオニード、その剣――」

「ああ、怒り任せに連中を殺したくないんだ。人を生かす事を生業にする人間が、人を殺す訳にはいかない。それに、君に無用な血を見せたくない」

 言い終わらぬ内にレオニードは階段を駆け上がっていく。
 彼の背を目で追いながら、みなもは口端をわずかに上げた。

 こんな不穏な事態なのに、胸の内が春の木漏れ日を受けたように温かくなってしまう。
 兵士ではなく、薬師として生きていく事に迷いがない。
 ずっと一緒に生きてくれるのだと、今さらながらに実感した。

「男がいたぞ! ソイツを先へ進ませるな!」

 レオニードが階段を上がり切った直後、連中の濁った怒声が飛んでくる。
 そして間髪入れずに、一番階段の近くにいた男が切りかかってきた。

 刹那、レオニードのまとう空気が、重く、凍てついたものへと変わる。

「ぐぁ……っ!」

 無駄のない動きでレオニードが男の腹を突き、大きく後ろへ飛ばす。

 どうやら殺す気はないが、容赦する気は一切ないらしい。
 むしろ思い切りよく剣を振れる分だけ、遠慮なく力を入れられる。

 本当に頼もしいと思いつつ、みなもは様子を伺いながら階段を上がっていった。
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