黒き藥師と久遠の花【完】
「どう? 立派な女神に仕上がっているでしょ?」

 クリスタに声をかけられ、みなもは我に返る。

「う、うん、驚いた。……そうか、髪を伸ばしたらこんな感じになるんだ」

 独り言を口にしながら、まじまじと鏡を見つめる。
 
 瓜二つとまではいかないが、姉のいずみの面影はある。
 ただ、彼女のように穏やかで慈愛に満ちた雰囲気はなく、隠し切れない気の強さが眼差しから感じられた。

「女神は女神でも、戦女神って感じがするな」

 みなもが苦笑しながら呟くと、クラウスから「ええ」と相槌の声が聞こえてきた。

「女神ローレイは常にハスク王を導くように、先陣を切って活路を開いた戦女神だったと言い伝えられています。美しく可憐な姿でありながら力強さも同居しているのは、みなも殿が男性だからかもしれませんね」

 ……つまり、どれだけ女性として着飾っても、男のフリをしてきた半生は隠せないということか。

 内心、複雑な思いが沸き上がってくる。
 が、女神ローレイに少しでも近づいているなら良かったと、みなもは強引に自分を納得させた。

「私のような者が女神を演じて、パレードを台無しにするのではと心配していましたが……クラウス様、ありがとうございます。胸を張ってみなさんの前に出ることができそうです」

 みなもが再び微笑みかけると、クラウスの目が泳ぐ。
 しかし、すぐに深呼吸して動揺を抑えると、彼はクリスタに箱を差し出した。

「も、もう間もなく始まりますから、どうかこれをみなも殿に――」

「はい、かしこまりました」

 クリスタは両手で箱を受け取ると、テーブルに置き、ゆっくりと蓋を開けた。

 ジャラ、という音が鳴る。
 少し間を置いて、みなもの背後へクリスタが近づく気配がした。

 硬い金属の冷たい感触が、首の周りを取り囲む。
 肩でずっしりとした青玉の重さを感じながら、みなもは胸元の石を見つめる。

 わずかな光でも弾き、生まれ出てくる美しい輝きに見とれてしまう。でも――。

(――俺は、レオニードが贈ってくれた首飾りのほうが良いな)

 彼が選んでくれた、水色の透明な石がついた首飾り。
 今日は首から外しているが、衣装の下に着ている胸当ての中にしまってある。

 己の首飾りがある所へ、そっと手を当てる。
 とくん、と小さく鼓動が跳ね、胸に陽だまりのような温かさが広がっていく。

 無性にレオニードを抱き締めたくなって、みなもは唇をほころばせた。
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