黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 パレードの先頭では、清楚な女官に扮した者たちが彩りを添え、カゴから白い花を手に取り、歩きながら脇に並ぶ人々へ振りまいていく。
 
 そんな華やかな列の後、今度はハスク王の兵士を演じる男たちが続いていく。
 ある者は儀礼用の剣を持ち、また別の者はヴェリシア王家の紋章が描かれた旗を高々と掲げる。

 さらに彼らの後へ続くのは、銀の鎧に身を包んだ騎士たち。
 模様が刻まれた鞍を載せた白馬にまたがり、胸を張って、堂々と前進していく。

 そして騎士の馬たちが引っ張るのは、多くの花々で飾られた女神の山車。
 二階建ての家屋ほどの高さまであるその山車の上に、みなもは立っていた。

「うわー、きれい! 本物の女神さまだ」

 湧き上がる歓声に混じり、左のほうから甲高い子供の声が耳に届く。
 声につられてそちらを向くと、人ごみに紛れ、小さな体を懸命に伸ばしながら手を振る女の子の姿があった。

 みなもは手すりに施された花飾りから、桃色の花を一輪手に取ると、女の子に向かって投げ渡す。
 花を受け取った瞬間、女の子の大きな目が丸くなり、満面の笑みを浮かべる。

 そんな彼女に微笑み返すと、みなもは胸元で手を振りながら、ゆっくりと辺りを見渡した。

(レオニードは……見当たらないな)

 一週間ほど前からゾーヤに請われて、レオニードは建国祭の準備を手伝っている。
 今日もその手伝いに追われているらしく、朝から慌ただしそうだった。

(「必ず見に行く」とは言ってくれたけれど……この様子だと、見つけるのは難しそうだな。この姿を見て、どんな顔をするのか見てみたかったのに)

 諦め半分に小さく息をついてみても、瞳はレオニードを探すことを止めようとしない。
 歓喜する人々の顔を眺めていると嬉しく感じるのに、ほんの少しだけ寂しさが滲む。

 みなもは小さく首を振り、気を取り直す。

(せっかくの祭りだから、もっと楽しまないとね。こんな機会、もう二度とないだろうから)

 俯きそうになった顔を起こし、華やかに彩られた城下街を眺める。
 建物からパレードを見ようと窓から身を乗り出す人々と目が合い、みなもは微笑を浮かべて手を振った。

 その時、宿屋と思しき建物の窓から、見覚えのある顔を見つける。
 無精髭を生やした、熊おじさん――浪司だった。

 浪司に気づいたことを察したのか、彼は口端を大きく引き上げる。
 遠目からでも分かる。明らかに人を見て面白がっていた。
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