黒き藥師と久遠の花【完】
(祭り好きの浪司のことだから、きっと来ると思ってたよ)

 みなもは小さくため息をつき、わずかに肩をすくめる。

(終わってから、からかう気満々だ。まったく……困った遠縁のおじさんだな)

 心でぼやきながらも、一ヶ月ぶりの浪司の顔に嬉しさがこみ上げてくる。

 浪司は不老不死を得た『守り葉』。
 仲間を失い、唯一生き残っていた姉の記憶を奪ってしまった今、一族の人間は自分と浪司だけ。
 それだけに浪司の存在は心強かった。

 無事に建国祭を終えたら、真っ先に酒と珍味を買いに行こう。
 また後で、と目で伝えてから、みなもは他の建物に視線を移した。



 パレードは大通りを過ぎ、門を潜って城内の広場へと進んでいく。
 いつもは静かで厳かな場所だが、今日だけは市民の入城も許されており、賑やかなものだった。

 特設された舞台まで伸びた赤い絨毯の道を、パレードはゆっくりと進み、舞台で待つ司祭やマクシム王へと近づいていく。

 舞台が間近になった所で、パレードはぴたりと止まる。
 そしてパレードに参加していた人々が、前から順番に跪き、頭を垂れていった。

 みなもは飾り布で隠されていた山車の内部へ入ると、階段を下り、絨毯の上へ姿を現す。
 刹那、濃くなった熱気と大きな歓声に包まれた。

(すごい……上から見ていた時と全然違う)

 今まで味わったことのない空気に、一瞬気後れしてしまう。
 しかし背筋を伸ばし、萎縮しそうな心を奮い立たせた。

 転ばぬよう、一歩、一歩と確実に踏みしめながら、みなもは舞台へと歩いて行く。
 階段を上がって舞台の上へ立った瞬間、騒がしかった声がスウッと消えた。

 舞台の袖から従者に扮した少年が金色の杖を持って現れ、みなもへ跪き、恭しく差し出す。
 杖の先端には美しく研磨された、大きく透明な水色の石――おそらレオニードから貰った首飾りと同じ石――が付けられていた。

 みなもは両手で杖を受け取ると、マクシムの元へ歩み寄っていく。
 真正面から臨む王の顔は、いつになく清々しく、口端を満足そうに上げていた。

「これより祝福の儀を行います。陛下、どうかあちらの祭壇へ」

 背後に立っていた白い髭を蓄えた老司祭に促され、マクシムは緩やかな動きで踵を返し、舞台の中央に置かれた祭壇へと移動する。
 そして祭壇の正面へ立つと、目を閉じ、その場へ跪いた。
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