黒き藥師と久遠の花【完】
 辺りに再びファンファーレが鳴り響き、人々から新たな歓声が沸き起こる。
 城門のほうへ目を向けると、ハスク王に扮した青年が白馬に乗り、舞台を目指す姿があった。

 みなもは彼の到着を、目で追いながら待ち構える。
 近づくにつれて見えてくる彼の顔に、思わず目を見張った。

『まさか、あのハスク王は……レオニードですか?』

 驚くみなもの隣で、マクシムがニヤリとほくそ笑む。

『みなもを驚かせようと思ってな、秘密裏に話を進めていたんだ……アイツは嘘がつけんから、この役目を知らせたのはつい最近だ』

 もしかしてこの一週間、建国祭の準備をするフリをして、ハスク王の衣装合わせをしていたのだろうか。
 女神のことで頭がいっぱいになっていて、レオニードの動きに気づかなかった。

 みなもは彼の顔を真っ直ぐに見つめると、表情を和らげた。

(元々、目立つことを好むような人じゃない。きっと俺以上に緊張しているだろうな)
 
 同じ緊張と恥ずかしさを共有していると思うと、なんだか嬉しくなってくる。
 それに――。

(レオニードには悪いけれど、マクシム様には感謝しないとね。この姿を一番近くで見てもらえる)

 許されるなら、このままレオニードに駆け寄って抱きつきたい。
 そんな衝動を抑えるように、みなもは杖を持つ手に力を入れた。

 舞台の足元に到着すると、レオニードは馬から降り、硬い足取りで階段を上ってくる。

 美しく金糸の刺繍で飾られた、紺青の軍服。
 乳白色のマントを胸元で留めているのは、大きな青玉を光らせたブローチ。
 欲目を抜きに見ても、その勇壮な姿はどんな騎士よりも凛々しく、数多の困難に打ち負かされることのない力強さを漂わせていた。

 水色の瞳が、しっかりとみなもを捕らえてくる。
 視線を合わせた瞬間、急に己の鼓動が早まり、顔に熱が集まってくるのが分かった。

 今日、一番緊張しているかもしれない。
 そんな自分を心で苦笑しながら、みなもはわずかにはにかんだ。

 レオニードはみなもとマクシムの前に立つと、硬い動きで右手を差し出した。

「我が妻よ、迎えに来た。……これよりともに天上へ戻り、我らの大地を、民を、守り続けよう」

 緊張しているのか、動きだけでなく声も硬い。
 しかし、その硬さが逆にハスク王の威厳となり、場の空気によく馴染んでいた。
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