黒き藥師と久遠の花【完】
 浪司はおもむろに頭を掻くと、そっと睫毛を伏せた。

「確かにお前さんはワシの大切なものを奪った。だが、みなもがお前さんを殺さないと決めたからな。それに――」

 一旦言葉を止めてから、浪司が声を落として呟いた。

「――ワシがもっと早くお前さんたちの危機に気づいていれば、防げたかもしれないんだ。いずみもお前さんも……助けられなくてすまなかった」

 ……ああ、そうか。
 向けられていた殺気は、オレだけじゃなく、浪司自身にも向けられていたのか。

 八年前からずっと胸奥に閉じ込めていた痛みが――罪悪感がナウムの中にこみ上げてくる。

 しかし今さら謝ったところで、死んでいった『久遠の花』や『守り葉』は戻ってこない。
 どんな謝罪の言葉を口にしたところで白々しい。

 いっそ殺してくれればいいのに、その道も選んではくれない。
 ずっとこの痛みとともに、生き続けていくことしか許されないのか。

 ナウムは大きく息を呑み、湧き出た痛みを再び胸奥へしまう。
 そして、コツ、コツと靴音を鳴らし、元来た道を戻っていく。

 浪司とすれ違いざま、ナウムは口を開いた。

「アンタが殺さないなら、オレは遠慮なく生かせてもらうぜ。後から後悔するなよ」

 こちらの言葉に浪司は何も返さない。
 が、互いに完全に背を向きあった瞬間、ポツリと呟いた。

「……いずみをこれからも守ってやってくれ」

 言われなくてもそのつもりだ。
 ナウムはフードを被り直しながら「じゃあな」と立ち去っていく。

 重くなった空気を茶化すように、ヒラヒラと手を大きく振りながら、ナウムは街の賑わいへ溶け込んでいった。
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