道摩の娘
「…りかの、きみ?」

 聞き覚えのない単語に、りいと晴明は首を捻る。

 恐る恐るそちらに目を向けると、そこに立っていたのは…

「と、超子様っ!?」

 鮮やかな錦の衣、手入れのいい黒髪の、愛らしい姫君。

「…何やってるんです、また御簾の外に出て」

 晴明があきれ声を出すが、

「相変わらずうるさいわね、わらわはお前は呼んでないわ」

 超子は理不尽に一蹴。

 その横でりいはひたすら混乱している。

(思い当たることは、この方へのご無礼だが…ここは謝ればいいのか?謝っておくべきか?とりあえず謝ろう、よし)

「あの、超子様…」

 りいは遠慮がちに声をかけた。もちろん土下座の準備は万端である。


 だが。

「ああ、利花の君!呼びつけてごめんなさいね。でも…あなたが悪いんだから。どうして全然来ないのよ」

「へっ?」

 記憶にあるより大分やわらかな声音に、りいは戸惑う。

「えっ、いえ、あの、だってご無礼を」

「わらわを守るって言ったくせに、顔も出さないんですもの…いえ、怖いわけじゃないけど、だって約束したからにはそばにいてほしいじゃないの。…頼りにしてるんだから」

「いえ、すぐ近くの邸に居候しておりますので」

 りいは混乱の極みである。一体何が起こっているのか理解できない。

 背後で何故か晴明がものすごい音を立てて吹き出した。

「ちょっ…ぶはっ…何、これ面白すぎるんだけど…はははっ…ほ、ほんと、ふひっ、何したのりいっ…あはははははははははは!」

 ひいひいと苦しそうな息をしながらもまだ笑っている。

 じっとりと振り返ってみれば、ひっくり返ってまで笑い転げていた。

 何がなんだかわからないが、とりあえず腹が立った。

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