たとえばセカイが沈むとき
チサトの住むアパートは、僕の記憶のままそこにあった。
表札も確かに彼女のもので、今時珍しく手書きした字に触れると、ほのかな温かさが指に伝わってきた感じがした。
呼び鈴へと応える彼女の声に、僕は泣きそうになる。
突然の訪問に、チサトはとても驚いたようだが、それ以上に驚いたのは僕に対してだろう。
チサトの姿が見えた瞬間、彼女のからだを抱き締めたから。
チサトの匂いやチサトの温もりに、僕は懐かしさと安らぎを覚えた。
「なあに、いきなり」
照れたようにはにかむ声も、愛しい。
しかし長くそうしているわけにはいかない。
僕はわけがわからないでいるチサトの手を引き、レイの部屋へ行った。