もう会えない君。
「凛、先に部屋行ってていいからな?」
そう言われた私は頷いて隼とマンションの出入口へと向かった。
「由香里、何してんの?」
隼は時計を何度も見直す由香里さんに声を掛ける。
だから私は軽く会釈だけをしてマンションの中に入ろうと手を伸ばす。
なのに…。
「あら、鈴木凛さん?丁度良かったわ」
……呼び止められてしまった事で伸ばしていた手を引っ込めた。
ゆっくり振り返ると満面の笑みを浮かべた由香里さん。
どうやら彼女は隼に用があるのではなく、私に用があるようだ。
「今ね?貴方と話したいって思ってたの」
待ち伏せしてたくせによく言うよ…。
だけど思ってる事を口に出来る程、私は強くない。
作り笑いを浮かべて「そうなの?」と返した。
「あれ、二人って…いつから知り合い?」
そんな私達の会話風景を見てた隼が口を開いた。
「今日から“友達”になったの♪」
やけに“友達”という言葉が強調されたように思う。
私は友達になった覚えなどないのに…勝手に話を進めるから口出し御無用という状況。
由香里さんは隼に言った。
根も葉もないような事も平気で口にした。
…だから隼は完全に私と由香里さんが友達だと勘違いした。
友達じゃないのに。
少なくとも私は友達になった覚えはないのに。