もう会えない君。


「そうなら、そうと言えよ!驚くじゃんか!」
隼は完全に信じ切っている。
もしかしたら、由香里さんは分かっているのかもしれない。
私が思ってる事を素直に口に出せない性格だって事…。


早くマンションに入りたい。
忘れてたのに…あの約束なんて忘れてたのに。


「私、洗濯物入れなきゃいけないから行くね」
そう隼にだけ告げてマンションの中に入ろうとした時だった。


突然、肩を掴まれた。
誰かなんて見なくても分かる。
…由香里さんだ。


「明日、楽しみだね」
少し低い声で小さく耳打ちをされた。


「ばいばいっ!凛ちゃん!」
満面の笑みで声のトーンも明るく戻った声で、私に言う由香里さんを怖いと思った。


私は由香里さんに会釈をして隼に小声で「ばいばい、今日はありがとう」とだけ告げてマンションの中に入った。


その後、隼と由香里さんが何を話したのかは分からない。
分からないし、知りたいとも思わない。
ただ…由香里さんとの約束は果たさなければならないという事だけしか頭になかった。


二人の会話よりも明日の約束を果たさなければならないという事だけしか…。


憂鬱な気持ちが私の中にこだました。
< 169 / 321 >

この作品をシェア

pagetop