もう会えない君。
黙り込んでいる私に痺れを切らした由香里さんは大きく溜息を吐き、鞄の中に手を入れた。
「邪魔の意味、分かってる?」
鞄から手を出さずに口を開く由香里さんの声の低さにゾッとした。
肌寒い季節に冷や汗を掻いてしまうくらいだ。
私は刺激してはいけないと思い、言葉を口にするのはやめた。
代わりに首を左右に振って応えた…のに。
私の行動は怒りを鎮める所か、刺激してしまったらしく、由香里さんは鞄の中から手を抜いた。
――キラリと街灯の光で輝きを放った。
――鋭い刃物のようなもの。
手には強く握られた刃物。
焦点の合わない目で私を捉える由香里さん。
「あんたの存在が邪魔なのよ!!」
「いやっ…――――」
刃物を振りかざそうと由香里さんが手を上げた瞬間、私は後ろに手を引かれた。
目を閉じていた所為で一瞬だけフラついたけど立ち直すと私の手を引き、走る隼と悠の後ろ姿があった。
え…?
「逃げるぞっ!」
隼の言葉に強く頷いた。
転ばないようにと、震える足に力を込めて走った。
この通路を抜ければ…交差点だ。
交差点なら人が居るから助けを求める事も出来る。
握られた手からは隼の温もりと優しさが伝わってきた。