もう会えない君。


息が切れても走り続けた。
転びそうになっても走り続けた。


少し遅れて公園を出てきた由香里さんの手には未だに刃物が握られている。


振り返っては何度も確認しながら走り続ける事、約10分。
ようやく、交差点に差し掛かった私達は十字路の所で立ち止まった。


後ろを振り返ると由香里さんの姿はない。
…途中で見失ったか、それとも誰かに呼び止められたか、どちらにせよ、追い掛けて来ていない事に安堵した。


切れた息を整えながら、私はその場に腰を抜かすようにして座り込んだ。
繋がれた手はいつの間にか解けていた。


座り込んだ私に隼は優しく頭を撫でた。
そして何度も口にする。…「ごめんな」って。


隼が悪いわけじゃないのに。
むしろ隼は何も悪くないのに。


切なそうな瞳で私の頭を優しく撫でる隼。
私は安心からか、涙が出てきてしまった。
すると隼は私の涙を指で掬ってくれて…私は隼の優しさに甘えた。


だけど…。
安心したのも束の間。


ふと悠に視線を向けた。
悠は視線を一点に集中させていた。


視線を辿った先には…――――向かい側に居る、刃物を持った由香里さんの姿だった。
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