それはたった一瞬の、


ふらふらと頼りない足取りで台所を出ていくその背中が、本当にかわいそうに思えてくる。

「わりぃ、俺ちょっと部屋戻る…。遅れるけど飯はちゃんと作るから、待っててくれ」


それほどダメージを受けてもご飯を作る役目は譲らない姿に感心していると、釧奈が慌てて沙霧の後を追いかけた。

「沙霧大丈夫!?もしかして体…」

「言うな」


地の底まで響くような低い声に、体が怯える。
さっきまでの沙霧からは考えられないほど力強く、恐ろしい声だった。

「で、でも、」

「付いてくんな!」

今度は力任せに投げつけるように荒々しく、激情を含んだ声音。

どうしてこれほどまでに怒ることがあるのか、私には理解できなかった。



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