はぐれ雲。
今朝の解剖の結果、遺体で発見された赤ん坊は生まれてきてすぐに首を締められたことによる窒息死と判明した。

その時点で、殺人事件と切り替わる。

達也は目を閉じ、湧き上がる怒りを静めた。


「…也さん?達也さん?」

「え?あぁ、ごめん。何?」

博子が心配そうな顔で横に立っていた。

「具合でも悪いの?顔色があまりよくないわよ」

「ちょっと、酔ったかな。大丈夫だよ」

そう言って立ち上がったが、ふらつく。

「おっと」

すぐに「大丈夫?」と博子が手を差し伸べる。

達也はそのまま彼女を抱きしめた。

「達也さん?」

「博子。俺は君が好きだ。初めて会った時から好きだった」

「どうしたの、急に」

達也の広くて温かい胸に、博子は体を委ねた。
なんとも言えない安心感が彼女の全身を包み、思わず彼の背中に手を回す。

「どこにも行くなよ」

「え?」

顔を上げて聞き返す博子に、達也はいつもの笑顔で言った。

「何でもないよ」と。



「何かあったのか」

亮二が博子の顔をのぞきこんだ。

「あ…ううん、ちょっと夏バテ気味かな。もうだいぶん暑くなったでしょ」

博子は白い歯を見せて笑った。

その様子に亮二は何か言いたげだったが、結局黙っていてくれた。
それがありがたかった。彼の前で夫の話はしたくない…。


博子は昨夜から達也のことが気になっていた。

彼は薄々何かを感じている、不安にさせている、彼を傷付けている。

でも、亮二と会うことをやめられない。

途切れてしまった想いを、紡がずにはいられない。

心が真っ二つに引き裂かれていくようだった。

「行きたい所、あるか?」

「え?」

「おまえ決めろよ」

「いいの?また怒るんじゃない?この前のラーメン屋みたいに」

「おまえの方が蒸し返してんじゃねぇか」

ふと、来る途中の電車の吊り広告を思い出した。
夏の星座展、開催中とあった。


「プラネタリウムなんてどう?」

「あ?プラネタリウム?」

亮二はやはり顔をしかめた。


< 154 / 432 >

この作品をシェア

pagetop