はぐれ雲。
達也と真梨子は近くのレストランで食事をとった。

大学時代の思い出話で盛り上がってしまい、達也は肝心なことを聞けずじまいだ。

場所を代えて飲み直さないか、彼はそう言った。

「帰らなくてもいいんですか?今日はせっかく早く仕事が終わったんじゃ?」

達也はそれには答えず、歩き出す。

静かなところがいいと思った。


薄暗いバーのカウンター。

ためらう真梨子に、彼は座るように目配せした。

真梨子はゆっくりと空いた席にバッグを置くと、達也の隣に腰をおろす。

「好きなもの頼めよ」

「そうですか?じゃあ遠慮なく」

彼女は笑顔でそう言うと、バーテンダーにカクテル名を告げた。

そっと隣の達也の横顔を見る。

疲れがたまっているのだろうか、学生のときのハツラツとした彼ではない。

「実は、青木に聞きたいことがあって」
深刻な顔だった。

「…何ですか?」
真梨子もつられて神妙な面持ちになる。

「もう随分前のことになるんだけどさ」
そう切り出す達也の顔が、苦しそうだった。

「大学の部活の飲み会で、俺がおまえに聞いたことを覚えてる?博子は他の大学に彼氏がいるのか、って。そしたら、おまえは『博子はもう恋なんてしたくないと思ってる』ってそう答えたんだけど」

「そう、でしたっけ…」

真梨子はとぼけた。
しっかりと覚えていたのに。

「どうしておまえはそう言ったのかなって。心当たりがあったからだろ?」

「あの、先輩。どうしたんですか、急に」

「ごめん」
達也は深いため息をついた。

「…博子とうまくいってないんだ」

そう言って、うなだれる。
辛そうに。

予想通りだ、と真梨子は思った。

博子の心に得体の知れない誰かがいることに、達也は薄々気付いている。

「あの日…」

「あの日?」


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