はぐれ雲。
「博子が流産した日だよ。
あの日の朝、俺が仕事に出かける前に博子は言ったんだ。
『お腹が時々すごく痛むの。不安だからそばにいてくれない?仕事、休むことはできないの?』って。
俺はやっと授かった命だから神経質になってるだけだと言って、家を出たんだ。それまでどんなに体調が悪くても、彼女が俺に仕事を休んでくれと言ったことはなかった。
でもあの日だけは言ったんだよ。
そばにいてくれって。
なのに俺は博子を置き去りにした。
それからすぐに病院から電話があったよ。
会わせる顔がなかった。
俺のせいだと思ったから。
博子にどうやって償えばいいのか、今でもわからない。彼女は逃げずに向き合ってくれって、そう言うんだ。でも、どうしていいのか、わからなくて」
二人は目を伏せる。
「博子の気持ちも、どんどん離れていくようで」
「そんな!」
真梨子はたまらず大きな声をあげた。
何て彼に言ってあげたらいいんだろう。
ちょうどその時、「お待たせいたしました」とバーテンダーが優しいピンク色のカクテルを真梨子の前に差し出した。
「おまえ、そんなシャレたもの、飲むんだっけ?」
達也がふっと笑顔を見せた。
一瞬、その場の重苦しい雰囲気が和む。
「大学のときは焼酎専門だったろ?」
「もう、言わないでください。
一応私だって女性なんですから、こういうところではオシャレなものが飲みたいんです」
そう言うと口を尖らせ、すねたように真梨子はグラスを手に取った。
「それもそうだな」
達也も自分の前に出されたウィスキーのロックに口をつける。
喉を甘めのカクテルが潤していくと、真梨子は思い切って聞いた。
「達也先輩。先輩があの日のことを後悔してるって、博子に直接伝えたら…」
「言えるわけないよ」
即答して、達也は笑った。
「今さら、何言ってるんだって…」
真梨子は半分になったカクテルを見つめた。
「それにさ、博子が俺から離れていっても仕方ないって、そう思ってる。結婚する前から、わかってたんだよ。博子には他に特別な人がいるって。わかってたんだ」
「え?」
あの日の朝、俺が仕事に出かける前に博子は言ったんだ。
『お腹が時々すごく痛むの。不安だからそばにいてくれない?仕事、休むことはできないの?』って。
俺はやっと授かった命だから神経質になってるだけだと言って、家を出たんだ。それまでどんなに体調が悪くても、彼女が俺に仕事を休んでくれと言ったことはなかった。
でもあの日だけは言ったんだよ。
そばにいてくれって。
なのに俺は博子を置き去りにした。
それからすぐに病院から電話があったよ。
会わせる顔がなかった。
俺のせいだと思ったから。
博子にどうやって償えばいいのか、今でもわからない。彼女は逃げずに向き合ってくれって、そう言うんだ。でも、どうしていいのか、わからなくて」
二人は目を伏せる。
「博子の気持ちも、どんどん離れていくようで」
「そんな!」
真梨子はたまらず大きな声をあげた。
何て彼に言ってあげたらいいんだろう。
ちょうどその時、「お待たせいたしました」とバーテンダーが優しいピンク色のカクテルを真梨子の前に差し出した。
「おまえ、そんなシャレたもの、飲むんだっけ?」
達也がふっと笑顔を見せた。
一瞬、その場の重苦しい雰囲気が和む。
「大学のときは焼酎専門だったろ?」
「もう、言わないでください。
一応私だって女性なんですから、こういうところではオシャレなものが飲みたいんです」
そう言うと口を尖らせ、すねたように真梨子はグラスを手に取った。
「それもそうだな」
達也も自分の前に出されたウィスキーのロックに口をつける。
喉を甘めのカクテルが潤していくと、真梨子は思い切って聞いた。
「達也先輩。先輩があの日のことを後悔してるって、博子に直接伝えたら…」
「言えるわけないよ」
即答して、達也は笑った。
「今さら、何言ってるんだって…」
真梨子は半分になったカクテルを見つめた。
「それにさ、博子が俺から離れていっても仕方ないって、そう思ってる。結婚する前から、わかってたんだよ。博子には他に特別な人がいるって。わかってたんだ」
「え?」