はぐれ雲。
「その人と…博子は小学生の時に剣道教室で一緒だったんです」

真梨子はポツリポツリと話し始めた。

話すことで達也の苦しみを少しでも楽にすることができるのなら、そう思ったのだ。

二人の出会いから、一緒に過ごした日々、突然の別れ、真梨子が知っている全てを、時間をかけて丁寧に話した。

「無愛想で、女子とはほとんど口を利かない人でしたけど、博子だけには心を開いていて。
彼のどこがいいのって、聞いたことがあるんです。じゃあ、口は悪いし素直じゃないけど、繊細で優しいんだよって。不器用でぶっきらぼうだけど、本当は寂しがりやなんだよって。
博子もそんな彼がほっとけなかったんだと思います。
あ、そういえば、部活の仲間をかばって殴られたこともありました。彼のそういうところが博子、好きだったんでしょうね。
あの時、世界中のどんな素敵な男の子が彼女に告白したって、ふりむきもしないくらい、博子はその人に夢中でした」

黙って聞いていた達也が口を開く。

「二人はどれくらい付き合ってたの?」

「付き合ってた…わからないんです。付き合おうって二人とも言わなかったみたいだし、学校以外で二人で会ったりすることはなかったそうです。ただ、二人ともお互いを必要としていたことは確かなんですけど」

達也は額に手を当てた。

「その人が急に、本当に急に何も言わずにいなくなっちゃって。博子はぬけがらみたいになってしまいました。剣道もやめました。そばで見ていて、本当に辛そうで、痛々しかった」

「彼を探さなかったの?」

「無理ですよ。今みたいにみんながみんな携帯持ってるわけじゃなかったし。まだ、私たち高校生で探すにも限界がありました。今なら、携帯のボタン押せば、居場所だってわかっちゃうけど」

達也は眉間に皺を寄せたまま、目を閉じた。そして深い溜息をつく。

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