はぐれ雲。
「でも、大学に入って、達也先輩に出会ってから、博子変わりましたよ。明るくなって、前向きになりました。親友の私が言うんだから間違いありません」

励ますように真梨子は達也の顔を見ながら言った。

「先輩の愛の力ですよ」

「ちゃかすなよ」
ふっと彼が笑ってくれた。

真梨子も少しホッとする。

「ほんとですよ。先輩、ずっと博子のことばっかり見てた」

達也も照れたように笑うと、真梨子を見た。

彼女の艶やかな唇が目に入る。

「達也先輩、私が剣道部に入ったらデートしてくれるって言ったのに、博子に夢中なもんだから、結局すっぽかされちゃったし」


「おいおい、勘弁してくれよ。あれはアキラが勝手に言ったことだろ?まいったなぁ、よく覚えてるなぁ」

二人は顔を見合わせて笑った。

「仕方ないですね。そのことは今夜で帳消しにしちゃおう!」

真梨子はカクテルグラスを、達也のグラスにコツンと軽くあてた。



「悪かったな、急に時間とらせちゃって。本当に送っていかなくていいのか?」

そんな彼の言葉に、真梨子はにこやかに頷いた。

「じゃあ、私はこれで。ごちそうさまでした」

軽く頭を下げると、彼女は歩き出す。

達也はそんな彼女の後ろ姿を見ていたが、急に思い出したかのように呼び止めた。

「青木!」
真梨子が振り返る。

「その人の、博子が好きだった人の名前を教えてくれないか」

少し考えた末、彼女はこう言った。

「新明…新明亮二さん、といいます」

そして再び歩き出す。

「新明…?」

達也は繰り返した。


真梨子は再度達也を振り返った。

彼はもうすでに背を向けて歩き始めている。

「達也先輩…」
さっきとは全く別の、険しい顔がそこにあった。


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