はぐれ雲。
「どうも付き合っていた男に捨てられたとかで、相当落ち込んで店にも出ていないらしい」

「別れた?それって本当ですか!?」

「ああ、もう目も当てられないくらい自暴自棄になってるよ」

「……」
レンの手が震えた。

そんな様子を見て、彼は言った。

「今のリサを支えられるのは君しかいないと思ってね。よくリサの相談にのってくれたそうじゃないか。だから迷惑を承知で、こうやって店に押しかけてしまった」

「俺…いや僕…」

「君しか頼れる人がいないんだよ」

初めに抱いた前田への違和感は、もうレンの中から消えてしまっていた。

完全に彼の言葉に舞い上がっている。

「リサは私の姉の子でね。家族の反対を押し切って湊川という、ろくでもない男と結婚してしまった。それからすぐにリサが生まれて…。小さい頃は素直で優しい子だったよ。
ただ両親の喧嘩が絶えなくてね。私も力になりたかったが、結局家を飛び出してしまったんだよ。ところが最近になってやっと連絡がとれてね。元気でやってると笑ってたんだが…」

前田は左の首筋にある大きな傷跡を撫でながら、大きくため息をついた。

「あの子を助けてやってくれないか」

そう言うと一枚の紙切れを差し出す。

そこには初めて聞くバーの名前と住所が記されていた。

「毎晩、リサはそこにいる」
前田はカクテルをチビリと飲んだ。

「様子を見てきてほしいんだ。私が行くと、うっとうしがるからね」

「あの、僕が、ですか」

「君しかいないんだよ」
男の言葉がレンの心をくすぐる。

「会って、話を聞いてやってほしい。今は強がって君を拒絶したり、傷つけることを言うかもしれない。だけど、それはあの子の本心ではないから」

「…わかりました、行って…みます」

「引き受けてくれるんだね」

「もちろんです、僕にとってリサさんは…」

「ありがとう、本当にありがとう」

男はホッとしたように頭を下げると、かばんから封筒を取り出しレンに押しやった。

「厄介なことを頼んで申し訳ないと思ってる。これはほんの気持ちなんだ、受け取ってくれ」

金だとすぐにわかった。
厚さからして30万はある。


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