はぐれ雲。
レンは生唾を飲み込んだ。

「そんな、いただけません」

本当は喉から手が出るほど金が欲しい。

「とっといてくれ。ほんの少しなんだから」

前田はカクテルを一気に飲み干すと、もう一度封筒をレンへと押しやり、「また来るから」と店を出て行った。

彼は辺りを気にしながら金の入った封筒を手元に引き寄せ、無理矢理ポケットにねじこんだ。

リサに会えるだけでなく、金も手に入るとは。無意識のうちに顔がほころぶ。


アパートの階段をのぼりながら、レンは思った。

とうとう自分にもチャンスがまわってきた。心の弱っているリサには、前田が言う通り、自分しかいないのだ。

部屋に入ると、荒い息遣いがもっと荒くなった。
壁一面のリサが、今自分のものになろうとしている。

「リサ、俺がついてるよぉ。大丈夫だから」

ふと、無数の穴のあいた亮二の写真が目にとまった。

「亮二…さんざんリサをもてあそびやがって」

レンはその写真に爪をたてた。

「これからは俺のものだ」

笑いがこみ上げてきた。

あの地味な加瀬という女に感謝した。

亮二とリサの間を引き裂いてくれた。
おかげでリサが手に入る。

畳の上で仰向けになった。

「リサ、リサ、リサ、リサ、リサぁ」
レンは薄気味悪い笑みを浮かべた。


リサがAGEHAに出ていないことは亮二の耳にも入っていた。

AGEHAは圭条会の資金調達の一つであり、亮二が任されている高級クラブの一つである。

彼女は連絡はおろか、今どこにいるのかさえつかめない。

「いいか、徹底的に探せ。一軒一軒しらみ潰しにしろ」

亮二はそう命じた。

リサと別れて、こうなることは予想しなかったわけでもない。あの女のことだ、こういう手段にでる可能性は少なからずあった。

しかし高級クラブのママとしての誇りがあると、そうも信じていた。
背中のアゲハ蝶のタトゥーを見せながら亮二に言った言葉に、偽りはないと思っていた。

まさに五分五分の賭け。

「亮二さん、リサを見つけたらどうするんですか」

直人が尋ねる。

リサも一緒にここまでやってきた仲間の一人なだけに、気になるのだろう。

「あいつ次第だ」
亮二は無表情で煙草に火をつけた。


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