はぐれ雲。
「頼む、戻ってくれ」
亮二は立ち上がると、リサに向かって頭を下げた。
「だ…誰がそんなことしてって頼んだのよ!」
思いもしなかった亮二の行動に、リサも立ち上がった。
「頼む」
「やめてって!」
それでも亮二は顔をあげない。
そんな彼を見て、何を思ったのか、ゆっくりとリサは座り直した。
「…あなたがそこまでする覚悟があるなら、あたしを抱ける?抱いてくれたら、店に戻るわよ。誓ってもいい。どう?」
リサが試すように言った。
「もうやめろよ、リサ」
直人がたまらず間に入る。
「あんたは引っ込んでて!」
「おまえには店を守ろうっていうプライドはないのか」
「黙ってなさいよ!」
リサと直人はにらみ合った。
笑いながら、四人で一つの鍋を囲んだのは何年前だっただろう。
お金はなかったけれど、みんな寄り添って助け合っていた。
今ここで、そんな思い出は微塵も感じられない。
険悪そのものだ。
亮二は下唇を噛み締めると
「…わかった」
と空気を一掃するように言った。
「亮二さん!」
リサが勝ち誇ったような笑みを浮かべて、「どうだ」といわんばかりの瞳で直人と浩介を見る。
「来いよ」
亮二はリサの腕を乱暴につかむと、店を出た。
彼女の階段を駆け上がるハイヒールの音が、静かな店内にまで響く。