はぐれ雲。
レンは、前田という首に大きな傷を持った男からもらったメモを片手に、毎晩リサの入り浸っているというバーを探していた。

今夜は無理を言って仕事を休ませてもらった。

<リサのためならどんなことでもする>

彼は小さなビルの前で立ち止まり、出ている看板とメモに書かれた店の名前を確認する。

「リサ…」

地下へ続く階段を一段降りたところで、階下で扉を乱暴に開ける音がした。
何事かと思って覗き込む。

レンは目をむいた。
そこには険しい表情の亮二と、彼に腕をつかまれたリサが引きずられるように階段を上がってくる。

「どけ!」
亮二がレンを突き飛ばした。

あまりの剣幕に彼はなすすべもなく、足が震え壁にへばりついていた。

リサはレンに気付くことすらなく、横を通り過ぎる。

「あ…わ…リサ、リサッ」
声がかすれて、彼女には届かない。

崩れ落ちるように彼は座り込んだ。

ヒールの音がどんどん遠ざかる。

どうすることもできずに、彼はその場にじっとしていた。
呼吸を整えるのがやっとだ。


ようやく落ち着きを取り戻した時、話し声が階段下から聞こえてきた。

「あ~!マジかよ、亮二さん。マジでリサのこと抱くつもりかよ」

そんな言葉に耳を疑った。

<なんだって?リサは騙されている。追いかけて、リサを助けなきゃ…>

しかしあの亮二の目を思い出すと、また足がすくんで立ち上がれない。

とうとう二人の男が階段を上りきって、姿を現した。

「おっ、おまえレンじゃねぇか。何やってんだよ、こんなとこで」

浩介が、小さくなって身動きが取れなくなったレンに近づいた。

「いやっ、あのっ」

「もしかしてリサを探しにきたのかよ。悪いことは言わねぇからさ、もうあの女に近づくなって。あいつに関わると痛い目に遭うぜ?この前で懲りなかったのかよ」

「はわ…わ」

レンの脳裏に、AGEHAで見た亮二の鋭い視線が蘇る。

「けっ!何ビビってんだよ」

浩介は馬鹿にしたように笑った。

直人は無言でチラリとレンを見ると、何も言わずに立ち去った。

苦しかった。

レンはリサが亮二に抱かれている姿を想像していた。

アパートの部屋のリサの写真にはない顔をするんだろうな、亮二に抱かれている彼女はどんな表情をするんだ、普段よりももっと甘い声を出すのか…

頭の中に多くのリサの顔がグルグル回る。


思わず股間が熱くなった。

それを必死に抑えると、次は前田に対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。

<あのおっさん!どうなってんだよ!リサは亮二と別れたんじゃねぇのかよ!>

あの男をぶん殴りたい衝動にかられた。

<恥かかせやがって!>



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