はぐれ雲。
「こわい顔」
その言葉と同時に、頬に冷たい感触があった。
我に返った亮二が顔を上げると、博子が缶コーヒーを手に立っていた。
「ここ」そう言って彼女は自分の眉間を指差す。
「新明くんのここに、皺が寄ってる」
そして自分の眉間にも皺を寄せて「こんな顔してる」と亮二に見せた。
「ぶっさいくな顔だな」
彼は鼻の頭をかいた。
ワインレッドのストールを肩からかけた彼女は、フフッと笑うと、
「ブラックと、ミルクコーヒー。どっち?」と、缶コーヒーを2本差し出した。
そのうちの一本に亮二は手を伸ばす。
「やっぱりあげない」
彼女は、咄嗟に缶コーヒーを持った手を空に高く突き上げた。
「おい、ガキみたいなことすんなよ」
いつものように眉間に皺を寄せて亮二がぼやく。
「あのね、新明くん。人から物をもらったら、ありがとう、でしょ?あなたがそう言うところ、私聞いたことないわよ」
「おまえは俺のおふくろかよ。いちいちうるせぇんだよ」
「よくないわよ、大人なのにお礼が言えないなんて」
膨れっ面で言い返すも、「早くよこせよ」と亮二は手を伸ばした。
「もぉ」
彼女がしぶしぶ差し出した缶をひったくると、彼は早速一口飲んだ。