はぐれ雲。
「ね…さっきこわい顔してたけど、何かあったの?」

博子も栓を開ける。

「何でもねぇよ」

「…そう」

きっと「仕事」で何かあったのだろう、そう思った。

こうやって彼と一緒にいると時々亮二の携帯が鳴り、その度に彼は博子から離れた場所に移動して話をする。

彼女も聞いてはいけないと思って目をそらす。

電話をする亮二の顔が、怖くて嫌いだ。

暗くて、厳しい顔をする。

だから見たくない。

その時ばかりは、彼はやはりヤクザなんだと思わざるをえなかったから。



「ねぇ、ずいぶん涼しくなったわね。日が暮れるのも早くなったもんね」

話題を変えようと努めて明るくそう言うと、博子は亮二を見た。

けれど、その声が聞こえていないかのように、彼は遠くを見ている。

「…ね?」

もう一度優しく言ってみる。

「えっ?あ、あぁ」

「また、こわい顔してる」

「もともとこんな顔なんだよ、悪かったな」

亮二は空を仰ぐと、大きく息を吸った。

「なんか、何もかもが面倒になってきちまった…」

そう言って、静かに目を閉じる。

組に金を入れるためとはいえ、リサを抱いたことに彼は少なからず後悔の念を感じていた。

正直、博子に会うことも憚られる。


河から吹く風が、二人の髪を撫でる。

博子は心配そうに彼を見つめた。

初めて見る、弱気な新明亮二。

そっと彼の手に、博子は自分の手を伸ばした。

その手を握ってあげたかった。

何があったのかわからないが、「大丈夫よ」そう言ってあげたかった。

「…新明くん」

しかし、彼女はその手を膝に戻した。

彼に触れることなく。



いつも通り、何を話すでもなく彼らは時の流れに身を委ねていた。

大人になって、こうやって時間を過ごしたことがあるだろうか。

いつも時間に追われて、せわしなく動きっぱなしで…

今日の夕焼けは昨日とは少し色が違うな、そんなこともう何年も思ったことすらない。

雲を見て、季節を感じることもなくなっていた。

でも、今こうやって亮二といると、小さな日々の変化に気付くことができる。







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