はぐれ雲。
鉄の重い扉を開ける音がして、慌てて博子が靴を脱いでいる気配がした。
「あの…おかえりなさい」
テレビを見る達也の後ろ姿に、恐る恐る声をかけてくる。
流産のことで言い合ってからというもの、二人の間には前にもまして、ぎくしゃくした空気が流れていた。
「どこ行ってたの」
振り返ることなく、達也は訊く。
「牛乳、切らしてて」
そう答えると、牛乳パック2本をテーブルの上に置いた。
「夕飯、支度するね」
慌しく動く博子を背に感じる。
達也はテレビなど見ていなかった。
今日は早めに帰ろうと思った。
「どや?今日は飲みに行かへんか?」
桜井が人懐っこい笑みを浮かべながら、誘う。
「すみません、今日はちょっと…。次はぜひお供させてください」
申し訳なさそうな顔の達也に、桜井は手を振って笑った。
「かまへん、気にすんな。独り身やから帰ってもすることあらへんから、誘ってみただけや。ほな、また明日な」
達也は桜井の背中に頭を下げると、携帯を取り出した。
「今から帰る」そう電話をしようと、博子の携帯番号を呼び出した。
ふと、発信ボタンを押す手が止まる。
突然、ある場所へ行ってみようと思い立ったのだ。
そしてポケットに携帯をしまうと、達也は博子の実家の方角へ向かった。
真梨子が言っていた、博子の実家近くの広い河川敷。
そこがあの二人の思い出の場所だ…と。
達也もそこを知っていた。
なぜなら、博子にプロポーズした場所でもあるのだから。
なんて皮肉なのだろう。
よりによってあの場所で結婚を申し込むなんて。
彼女はどう思っただろう。
達也は土手をあがった。
辺りは深い紫色の光に包まれている。
ちらほらと河川敷に設けられた遊歩道の外灯が、道なりに点灯していく。
向こう岸のビルや民家の窓からも光が漏れていた。
そんな景色を達也はひとり、眺める。
博子と新明亮二は、ここを一緒に歩いていた。
この風景を見ながら…
この風を感じながら…
何を話しながら、ここを通ったのか…
「あの…おかえりなさい」
テレビを見る達也の後ろ姿に、恐る恐る声をかけてくる。
流産のことで言い合ってからというもの、二人の間には前にもまして、ぎくしゃくした空気が流れていた。
「どこ行ってたの」
振り返ることなく、達也は訊く。
「牛乳、切らしてて」
そう答えると、牛乳パック2本をテーブルの上に置いた。
「夕飯、支度するね」
慌しく動く博子を背に感じる。
達也はテレビなど見ていなかった。
今日は早めに帰ろうと思った。
「どや?今日は飲みに行かへんか?」
桜井が人懐っこい笑みを浮かべながら、誘う。
「すみません、今日はちょっと…。次はぜひお供させてください」
申し訳なさそうな顔の達也に、桜井は手を振って笑った。
「かまへん、気にすんな。独り身やから帰ってもすることあらへんから、誘ってみただけや。ほな、また明日な」
達也は桜井の背中に頭を下げると、携帯を取り出した。
「今から帰る」そう電話をしようと、博子の携帯番号を呼び出した。
ふと、発信ボタンを押す手が止まる。
突然、ある場所へ行ってみようと思い立ったのだ。
そしてポケットに携帯をしまうと、達也は博子の実家の方角へ向かった。
真梨子が言っていた、博子の実家近くの広い河川敷。
そこがあの二人の思い出の場所だ…と。
達也もそこを知っていた。
なぜなら、博子にプロポーズした場所でもあるのだから。
なんて皮肉なのだろう。
よりによってあの場所で結婚を申し込むなんて。
彼女はどう思っただろう。
達也は土手をあがった。
辺りは深い紫色の光に包まれている。
ちらほらと河川敷に設けられた遊歩道の外灯が、道なりに点灯していく。
向こう岸のビルや民家の窓からも光が漏れていた。
そんな景色を達也はひとり、眺める。
博子と新明亮二は、ここを一緒に歩いていた。
この風景を見ながら…
この風を感じながら…
何を話しながら、ここを通ったのか…