はぐれ雲。
「でも、どうやって?あの男は手ごわいですし」

亮二の目を思い出して、レンは身震いした。

乗り気ではない彼に気付き、前田は言う。

「その男が怖いのかね、君は」

あまりに的を射た言葉に、レンはカッとなった。

「とんでもない、誰があんな野郎!」と乱暴な口調が思わず飛び出る。

「リサを好きでいてくれてるんだろ?」

「も、もちろんです」

「だったら、頼む。必要なだけ金は払う」

そう言うと、前田は再度バッグから分厚い封筒を取り出した。

「足りなくなったら言ってくれ」

レンの手が、小刻みに震えながら封筒に触れた。

この金に触れた以上、もう後戻りできない、そうわかっていたのに。


リサは、亮二に抱かれた次の日から店に出た。

ホステスたちも安堵の表情を浮かべる。

「やっぱりママがいないと!ママお目当てのお客様もいるんだから」
そう言って彼女たちはリサの復帰を喜んだ。

以前にも増して彼女は店の経営に力を注いだ。

<金を作って、亮二に貢ぐ。そして彼を圭条会のもっと高い地位へ押し上げてみせる。誰でもない、このあたしが。そうすれば、きっと彼はあたしのありがたさに気付く>

「エリカ、ちょっと」

支度中のナンバーワンホステスをリサは呼び出すと、コソコソと耳打ちした。

「…ママ、それはヤバいんじゃ…」

「エリカ、何もあんたにやれって言ってるわけじゃないのよ。あんたの知り合いをあたってくれないかって、お願いしてるのよ。紹介料は払うわ」

煙草に火をつけながら、リサは上目遣いでそのホステスの顔を威圧的に睨む。

「でもぉ…」

渋る彼女にリサは冷たく言い放った。

「嫌ならいいけど。お店、やめてもらうわよ」

「そんな!」

「あんたを引き抜いてここに置いてやったのは、あたしよ。このAGEHAでトップ張ってられるのは、誰のおかげ?それくらい恩返しだと思ってやりなさいよ」

フーッとリサは目の前の若いホステスの顔めがけて、細い煙を吐き出した。

「…わかりました」

諦めたようにナンバーワンホステスはうなだれた。


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