はぐれ雲。
リサの叔父さんからもらった、そう言おうとして口をつぐんだ。

前田からは、リサには自分が関わっているということを知らせないでくれと、念を押されていたからだ。

身内を嫌うリサにはかえって逆効果だから、と。

ますます意地を張って亮二と別れなくなる、そう言われたのだ。

この金はリサを監視するために、AGEHAに通うために、前田が準備してくれたものだった。

毎日通って、まずはリサの信頼を得るようにと、そう指示された。

リサに会えて、高級クラブで酒が飲めて、その上報酬として金ももらえる。こんな夢のような「仕事」を断れるはずがなかった。


「競馬で、大きいの当てて」

「本当に?」
リサがのぞきこむ。

「本当ですよ。だからリサさん、お店終わったらどっか行きましょうよ。何でも好きなもの買ってあげますよ」

そう言って、彼女の肩に手を回した。

「悪いけど」
それをリサはスルリと交わす。

「お店閉めた後も、あたし忙しいのよ」


店に戻るリサを見ながら、レンはうっとりした。

髪を結い上げたあのうなじに、唇を這わせてみたい。

そんな願望がむくむくと沸き起こった。
ますますリサを自分のものにしたい欲望が膨らんでいく。




しばらく亮二からの連絡は途絶えたままだ。

どうしているのだろう、何かあったのだろうか。気になって仕方ない。

博子は、一人でいつもの土手に来ていた。

斜面にゆっくりと腰をおろすと、あのベンチを見下ろす。

太陽の光が燦燦と降り注ぎ、風の冷たさも気にならない。

子どもたちも今は学校の時間で、河川敷はひっそりと静まり返っていた。


博子はきゅっと膝を抱えた。

ふと、あのベンチに座る自分と亮二の姿が見えた。

そして後ろを振り返ると土手の上で達也からプロポーズを浮ける自分がいた。

亮二といる自分。

達也といる自分。

その二人に挟まれ、博子は思わず膝に顔をうずめた。

どちらが本当の自分なのかわからない。

亮二に会いたいと思ってしまう。
そばにいたいと願ってしまう。

けれど…

達也を愛している。
あの優しさに包まれたときのあの温かさ…

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