はぐれ雲。
亮二が言った。
「自分の指導不足です。申し訳ありません。以後このようなことがないように注意します」
「亮二」
先ほどとは違って、恐ろしいほど穏やかな声の林。
「俺はおまえを信用している、誰よりも。全てをおまえに任している」
そう言うと、亮二の後ろに回り込んだ。
「おまえは頭もいい、度胸もある。
下の者もおまえをとことん慕っている。羨ましいくらいだ。俺が見込んだだけのことはある。
だが、残念なことが一つ…」
そう言って、背の高い彼の両肩を背後からわしづかみにした。
「おまえは甘い。
情けなんて今の俺たちの世界には通用もしなけりゃ、必要もない、これっぽちもな。
捨てろ、そんなものは。
じゃないと、いつか身を滅ぼす。
そんな世の中になったんだ、昔とは違う」
林はその肩を軽く揺さぶると、亮二の上着についていた糸くずをつまんだ。
「いいか、亮二」
振り返った彼に、林は目の前にそれをちらつかせる。
「ヘマだけは、すんなよ」
静かだが威圧的な声が耳を舐めるようだ。
「はい、承知しています」
林はフンと笑うと、糸くずを床に捨て部屋を出た。
亮二はその後ろ姿に深々と頭を下げる。
その時、先ほど林の落としたゴミが目に入った。
彼の目の端が一瞬痙攣する。
糸くずなどではなかった。
それは細い、しなびた枯草だった。