はぐれ雲。
上着を脱ぎ捨てると、黒革のソファーに亮二は身を委ねた。

それを直人が拾い上げる。

「冷蔵庫開けて、勝手に好きなもの飲めよ」
そう言うと亮二は煙草に火をつけた。

キッチンから浩介が尋ねる。

「亮二さんは何飲みます?」

「ビール」

「直人は?」

「じゃあ、俺もビールいただきます」

広いリビングにソファーとテーブル、テレビだけといった殺風景なほどすっきりとした部屋だった。

キッチンもほとんど使われた形跡がない。

この自宅マンションへは、決して彼は女を入れなかった。

リサも例外ではない。

ここに入れたのは、直人と浩介、数人の弟分たちだけだ。

「AGEHAを売却する」

その言葉に栓を開ける二人の手が一瞬止まった。

亮二だけはかまわず、ビールを流し込む。

「わかりました。で、どこに?」
直人は頷くと、栓を開けた。

プシュッと心地いい音がする。

一方浩介は驚いた顔で、あとの二人を交互に見た。

「まだそれは決めていない。新しいクラブの経営が軌道に乗ってからだ」

直人はビールに視線を落として、何かを考えているようだった。

「ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ、リサはどうなるんすか」

浩介が慌てた様子で尋ねる。

「あいつは誰が経営者になろうと、十分やっていける。それにあのクラブの責任者だということに変わりはない。売却時の条件で、それは明記させる」

「でも、俺たちずっと一緒にやってきたし…亮二さんと別れた今でもちゃんと金を入れてるし…
それをバッサリ切るってのも…」

「浩介」
直人が苛立ったように缶をテーブルに置く。

「だって、そうじゃん?あいつだけ…」

「いいか、浩介。女一人のために立ち止まっていられないんだよ、俺たちは」

直人の言葉に、彼は腑に落ちない、といった顔をしてみせた。

亮二は何も言わずに、ただビールを飲む。

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