はぐれ雲。
帰りのエレベーターの中で、浩介はチクリと言った。

「ちょっと酷くね?そりゃあ、リサはカッとなったら何するかわかんないけどさぁ」

「おまえ、本当にバカだよな」

「あ?」

「亮二さんは、リサをもう圭条会から解放してやりたいんだよ。だから、ああ言ったんだ」

「なんで…」

「ここ最近、隣の組との対立が目立ってきてるだろ。何かあったらリサも巻き込まれるかもしれない。それを心配してるんだ。一度は恋人として一緒にいたんだからな。気にしてるんだろ」

「……」

「ああいう人なんだよ、亮二さんは。おまえだって、ずっとそばにいてわかるだろ」

「…まぁ、そうだけど」

「俺たちはあの人を信じて、全力で尽くす。そうだろ、浩介」

「そう、だったな。すまん」

ちょうどエレベーターのドアが開いた。

「それよりさ、いっつも思うんだ。亮二さん、よくこんな高層マンションに住めるよな。俺怖くてさぁ。地震とか来たらやばくね?俺やっぱり直人の部屋が一番落ち着くよ」

「うまい事言って、また上がり込むつもりだろ。やめてくれよな」

「いいじゃねぇか。あんな広い部屋で一人じゃ寂しいだろ」

「亮二さんの部屋の方が広いぞ。戻って、泊めてもらえよ」

「いやぁ、何か高いとこから落ちそうな夢見そうじゃん?」



人通りの途絶えた道の、街灯の白い光の中に、二人の影が細く長く伸びていく。

亮二はマンションのバルコニーからそれを見ていた。

浩介と直人がじゃれ合うようにして、遠ざかって行く。

冷たくなった風が部屋に入り込むせいで、カーテンのはためく音がする。

『俺たちを連れて行ってください』

まだあどけなさの残る二人の顔が亮二にそう言ったのを思い出す。

彼はポケットに入れていた手を強く握り締めると、そのまま遠くの夜景を眺めた。

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