はぐれ雲。
「おい、これ持っとけよ。邪魔なんだよ」

その声に振り返ると、亮二は博子がかけた上着を投げつけた。

「え?もういいの?まだ休んでても大丈夫よ」

「おまえがジロジロ見るから寝れやしねぇよ」

彼はそう言うと伸びをした。

「ごめん…って、え?寝てなかったの?」

彼をずっと見つめていたことが、急に恥ずかしくなる。

「冷えるぞ、着とけよ」

「うん」

「ついでに俺のも持っとけ、暑くてたまんねぇ」

「あ、うん…」

博子は亮二の上着をそっと抱き寄せた。

温かい。

<暑いだなんて、嘘ばっかり…>


「水族館なんてガキの頃の遠足以来だからな。見といて損はねぇだろ。一応500円、払ってんだからよ」

博子にはわかっていた。

疲れた体で、無理をしてくれていることを。

でも彼はいつもそうやって、かわいくない言い方をする。

「嘘つき」

「あ?何が」

「なんでもない」

笑うとわざと訊いてみた。

「遠足以来って本当に?」

「まあ、付き合いで何回か行ったな。もっとでかいとこだけどな」

「付き合い?そんな言い方して。女の人と行ったって、正直に言えばいいのに」

くすくすと博子は笑う。

「うるせぇな、やきもちかよ」

「とんでもない」

彼女は手をひらひらと振ってみせた。

<やきもちなんてやくはずないじゃない。だって、今はこうして私とここにいてくれるんだから>

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