はぐれ雲。
レンはブルーローズを辞めた。

前田に渡された金でAGEHAに通い、リサのもとに亮二が来ないかどうか監視する。

ただそれだけでよかった。

それだけで報酬がもらえる。

こんなうまい話があるだろうか。

毎晩高い酒を飲み、きらびやかな女が自分に媚びる…たまらない。

ただリサは相変わらず、レンの席につくことはなかった。

それが唯一の不満だ。

逐一、彼はリサの様子を前田に報告する。


前田について少し気になることがあった。

几帳面、いや神経質と言ったほうがいいかもしれない。

渡される金は全て新札で向きが揃っているし、何よりも驚くことは、必ず持参したハンカチで口をつけるグラスやカトラリーを拭くことだった。
レン自身、自分は神経質な方だと思っていたが、前田はその上を行く。



「新明亮二はAGEHAを売り飛ばして、リサを自分から遠ざけようとしているらしい」

ある日、前田はレンに打ち明けた。

レンの顔が明るくなった。

「それっていいことじゃないですか。これであいつとの縁が切れて」

そこまで言ってあることに気付いた。

もしリサと亮二との関係が断たれたら、自分の役目は終わってしまうのではないか。

<もう金が入ってこない…>

一瞬にして、頭が真っ白になる。

リサと金…

レンの目が泳いだ。

前田がそんな自分を見ている、そう感じたレンは顔をあげた。

その時、前に座る中年男の瞳に寒気を覚えた。

底から湧きあがる得たいの知れないオーラ。

<こっ、このオッサン、何者なんだよ…>

レンの驚いた顔を見て、先ほどの視線は嘘だったかのように、前田は穏やかな空気をかもし出す。

「しかし、今までいいように使われて、必要なくなったから売却となると…リサもあの店のママではいられなくなるかもしれない。城田くん…もしリサにもしものことがあれば、君はあの子のそばにいてくれるかい?」

<なんだ、今のは気のせいか…>

レンは手元の水を飲んだ。

「もちろんです。リサさんから離れません」

「ありがとう。金は今までどおり渡すから」

「…はい」
前田の言葉にホッと胸を撫で下ろす。

これでしばらくは安泰だ、そう思った。

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