はぐれ雲。
「それ以前にはどうでしょう」

「春から何回か会いました」

「春?今まで定期的に会っていらしゃったんですか」

「いいえ。15年ぶりでした。本通りを歩いていて、ばったり再会したんです。彼、高校生の時に突然転校していったものですから、つい懐かしくて…。それ以来、何回か食事に行きました」

「食事だけ、ですか?」

あからさまに嫌な顔をして博子は逆に問う。

「何がおっしゃりたいんですか?」

安住はわざとらしく驚いたような顔をした。

「いえね、あなたと新明亮二さん。中学の時、お付き合いされてましたよね。そんなお二人が再会して、会う度に食事だけ、というのも…」

彼は咳払いをすると、こう続けた。

「下品だと思われるでしょうが、勘弁してください。私たちも仕事なもんで。いや、いろんな事件を担当していると、歪んだ見方をどうしてもしてしまうんですよ。いい大人の男女が、食事だけっていうのも、不自然だ、とかね。昔、付き合っていた仲ならなおさら…」

「おっしゃっていることの意味がよくわからないのですが」

博子は険しい顔つきで安住を睨んだ。

「そもそも、私は新明さんとお付き合いをしたことはありません」

「ですが、同じ中学の同級生は、いつも一緒に帰っていた、と。親密そうだったと言っていますが」

「それはその人たちが『そう思った』だけですよね。私は周囲に、親友にすら、彼と付き合っていると一度だって言ったことはありません。確かに私たちは仲は良かったですし、一緒に下校していました。でもそれは家が同じ方向だったからです。そういうのを、巷では『幼なじみ』って言うんですよね。そんな幼なじみの男女が一緒に帰るだけで、付き合ってるってことになるんでしょうか」

「まあ、加瀬さん、ご気分を害されたのなら、謝ります」

安住は苦笑いした。

「では、新明さんとは男女の関係には…」

「なるはずもありません。私は結婚しているんですよ。私だって彼が暴力団の組員だと知っていたら会いませんでした。夫は警察官ですよ」

「しかしですね、ある女性が、あなたと新明さんが深い関係であると、そう言ってるんです」

「その女性が、そういうところを見たとでも?」

「いえ、そこまでは…」



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