はぐれ雲。
そして、時間の無駄だ、そう思った。

彼らが訊きたいことはそんなことじゃないはずだ。

博子は思い切って問うた。

「先ほどから一体何をお訊きになりたいのか、私にはわからないんですが」

額のペンを当てたまま、安住は渋い顔をした。

「単刀直入に申しますと」

安住はちらりと鏡になっている小窓に目をやる。

「あなたと新明亮二の間に、何らかの情報のやりとりがあったのではないかと…」

今まで「新明さん」と読んでいた安住が、彼を呼び捨てにした。

核心に迫ったのを感じて、博子は気を引き締めた。

「情報?」

「はい。あなたから新明亮二へと」

「私が彼に何の情報を?もしかして、主人の仕事のことですか。警察情報を私が彼に漏らしたと?まさか」

信じられない、そう言いたげな顔をする。

「まあ、早い話、そうです」

「それは絶対にありえません。どうして私がそんなことを!さっきから言ってるように、新明さんが暴力団に入っていることすら知らなかったんですよ?それに、彼だって夫が警察官だなんて知ってたとは思えません!」

博子は狼狽したように見せ、一気にそう言い終えると大きなため息をついた。

そして、先ほどとはうってかわって、落ち着いた声で安住に言った。

「私は加瀬が警察官になる前からそばにいました。彼の正義に対する思いは誰よりも知っています。ずっとそんな彼を見てきました。
それを踏みにじるようなことを、絶対にするはずがありません」

「どうしてそう言い切れるんですか」

「加瀬を、あの人を愛しているからです」

凛とした姿だった。

安住も突然の言葉に少し驚いたようだ。

< 273 / 432 >

この作品をシェア

pagetop