はぐれ雲。
「新明さん」

「証拠持ってきてみろよ、証拠!ったく、証拠もねぇのに、こんなとこまで呼びつけやがって。違法じゃねぇの?」

亮二はふんぞり返ると、舌打ちをした。

「まぁ、落ち着いて、新明さん。
売春斡旋の件については、参考までにお話をうかがったまでです。あなたが関与しているとまでは言ってませんよ」

「よく言うぜ」

「実はもう一つ、来ていただいたのには理由がありまして」

「何ですか、早くしてくれませんか」
亮二はコツコツと苛立ったように踵で床を何度も打つ。

「さっき、他の女性とも遊んでみたいとおっしゃいましたよね」

「ええ」

「それは加瀬博子さんのことですか?」

「加瀬?…あぁ、あの女ね。昔は葉山っつったっけな。その女と俺が?勘弁してくださいよ」

亮二は眉を下げて笑った。

「加瀬さんとはどういうご関係ですか?」

「あの女とは、中学の時の部活の後輩でね」

「ほう、何部でした?」

「剣道部。そんなことどうでもいいだろ。春くらいだったかな、バッタリ会ったもんだから、何回か飯を食いに行きましたね」

「それは具体的にはいつ?」

「さぁ…4月?5月?そのあたりじゃないですかね」

「では、最後の会ったのはいつですか?」

「夏…だった気がしますね。
あのね、俺にはたくさんかまわなきゃいけない女がいるんですよ。あんな女のことなんて、いちいち覚えてるわけないでしょ」

「それっきり会ってない?」

「会ってませんよ」
机に肘をついて、うっとおしそうに答える。

「なぜです」

「なぜ?そりゃあ、リサがうるさかったんだよ。まだその頃は付き合ってたからな」

「加瀬さんとは、本当に食事だけでしたか?」

「加瀬って聞きなれねぇから、一瞬誰のことかわかんなくなるな」

亮二は白い歯を見せると、鼻の頭をかいた。

「質問に答えてください」

彼はため息をつくと、胸元から煙草を取り出した。
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