はぐれ雲。
そんな達也に、四課の刑事は冷たく言い放った。

「売春斡旋は、湊川リサの単独の関与が濃厚だ。その線では圭条会をつつくことはできない。
実際におまえの妻と、新明は会ってたんだ。それはまぎれもない事実だろ。こういう疑いで聴取するのは、仕方ない」

「しかし!」

「おい、加瀬」

「おまえも警察官だろ!圭条会がいかに治安を脅かしているかくらい、わかってるだろ。
どんなに強引でも、ひとつの些細な事実からあいつらを追い込まなきゃ、いつまでたっても俺たちの戦いは終わらないんだよ!おまえのいる一課だって、そうやってきたはずだ!」

達也の体から力が抜けた。

そうだ、これが組織なのだ。

圭条会の幹部である新明亮二をここにおびきだすには、リサの言葉は思ってもない収穫だったに違いない。

四課の狙いは、情報漏洩があったかどうかではない。

彼らの真の目的は、圭条会本部事務所の家宅捜索。

そうすれば、芋づる式に犯罪の証拠が出てくるというわけだ。

<今、こいつらは新明の口から警察側に有利になる発言が出るのを待っている>


博子はそれに利用された。



達也は唇を噛み締め、桜井の手を振り払う。

「加瀬、おまえは外に出とけ」

雲の上を歩いている気がした。

「桜井さん、このこと…知ってたんですよね」

「すまん」

「どうして…どうして俺に博子の聴取を見せたんですか」

「すまん。今はそれしか言えん」

顔を歪めると、達也は静かに部屋を出た。

よろめくように壁に手をつく。

妻のことを想った。
苦しくて仕方なかった。

「博子…!」

こぶしで冷たいコンクリートの壁を殴る。

痛みなど感じる余裕などない。



達也は、ポケットから真梨子に手渡されていた紙を取り出すと、目を通すことなく一気に破り捨てた。


< 282 / 432 >

この作品をシェア

pagetop