はぐれ雲。
新明亮二の事情聴取は、3時間近くにもわたって行われた。

辺りはすでに暗くなっている。

亮二はコートの襟を立てながら、外に出た。

どっと疲れが押し寄せ、夜の冷たい風に思わず首をすくめる。

今の時間、表の通りは帰宅を急ぐ者や繁華街へくりだそうとする人で、ごったがえしているに違いない。

人混みの苦手な亮二は、公園を横切ろうとした。
裏道から抜けようと思ったのだ。

何とかしのげた、そう溜息をついたところで、男が一人声をかけてきた。

「新明亮二さん、ですよね」

黙って声の主を振り返る。

暗闇ではっきり顔が見えない。

「見事な演技でしたよ」

男はそう言った。

亮二は無視をして、また歩き出す。

「地味な女はお嫌いとか?所帯じみた女は願い下げ…本当にそうでしょうか」

彼の踏み出した足が止まる。

警察関係者だと咄嗟に思った。

もう一度振り返ると、いぶかしげに亮二は尋ねた。

「あんたは?」

鋭いまなざしで睨んだが、その男は臆することなく亮二に近寄ってきた。

腕を伸ばせば届くくらいのところまで来ると、ピタリと足を止める。


次の瞬間、男の口から飛び出した言葉に、亮二の目が大きく見開いた。



「加瀬といいます」



電球の切れかけた街灯が、チカチカと点滅していた。

< 283 / 432 >

この作品をシェア

pagetop