はぐれ雲。
亮二は弾かれたようにポケットに突っ込んでいた手を出すと、無言で頭を下げた。
「あなたと話がしたい、そう思いまして」
目の前の男のその言葉に、厳しい表情で顔を上げる。
「さきほどの聴取、隣の部屋から拝見していました。演技がお上手なんですね」
「何のことですか」
「僕の知っている新明亮二という男は、あそこまで多弁じゃない」
「はい?」
「覚えてませんか、僕のこと」
そう言って、達也が再び詰め寄る。
先に目をそらせたのは亮二だった。
「無理もありません、随分昔のことです。その頃両親はまだ離婚していなかったので、僕は父方の姓の藤本を名乗っていました」
「藤本?」
達也は亮二の肩を軽く叩いた。
「座りませんか?」
その視線の先には古ぼけたベンチがあった。
先に達也が腰を下ろす。
そして「もしよかったら」と、コートのポケットから温かい缶コーヒーを取り出すと、突っ立っている男に差し出した。
軽く頭を下げて亮二はそれを受け取る。
「実は高校一年の剣道新人戦、僕とあなたは対戦してるんですよ」
無言のまま、亮二も達也にならって腰を下ろす。
「決勝戦です。延長戦にまでもつれこんで…ほんの一瞬の隙を突かれました。完璧な面、一本」
缶を手の中で転がしながら、達也は隣に座る男の顔を見た。
彼はじっと手元の缶を見つめている。
「あなたと話がしたい、そう思いまして」
目の前の男のその言葉に、厳しい表情で顔を上げる。
「さきほどの聴取、隣の部屋から拝見していました。演技がお上手なんですね」
「何のことですか」
「僕の知っている新明亮二という男は、あそこまで多弁じゃない」
「はい?」
「覚えてませんか、僕のこと」
そう言って、達也が再び詰め寄る。
先に目をそらせたのは亮二だった。
「無理もありません、随分昔のことです。その頃両親はまだ離婚していなかったので、僕は父方の姓の藤本を名乗っていました」
「藤本?」
達也は亮二の肩を軽く叩いた。
「座りませんか?」
その視線の先には古ぼけたベンチがあった。
先に達也が腰を下ろす。
そして「もしよかったら」と、コートのポケットから温かい缶コーヒーを取り出すと、突っ立っている男に差し出した。
軽く頭を下げて亮二はそれを受け取る。
「実は高校一年の剣道新人戦、僕とあなたは対戦してるんですよ」
無言のまま、亮二も達也にならって腰を下ろす。
「決勝戦です。延長戦にまでもつれこんで…ほんの一瞬の隙を突かれました。完璧な面、一本」
缶を手の中で転がしながら、達也は隣に座る男の顔を見た。
彼はじっと手元の缶を見つめている。