はぐれ雲。
達也が外から帰ると、資料室に人の気配を感じた。

「13年前に飯島という男とその妻、2歳の娘の三人が自宅で殺されたんや」

桜井は達也が戻ってきたのを察すると、そう切り出す。

「…桜井さん?」

かまわず彼は続けた。

「家の中は荒らされて、金目のもんは全部なくなっとった。わしらは強盗殺人で捜査しとったんやが、その飯島が圭条会の元組員やったことがわかった。組におる時には、林っちゅう大物幹部の下で忠実に働いとったらしい。覚醒剤や銃器の密輸に一役かっとったことも、突き止めた」

そう言うと、見たことのあるファイルを手に立ち上がった。

先日、気になって手にとったものに違いない。

そこには「元暴力団員一家殺害事件」と書かれてある。

それを黙って達也に手渡す桜井には、いつもの明るさはなかった。

「飯島は娘が生まれて、一家三人でやり直そうと組を抜けた矢先に、殺られたんや。
わしらは圭条会のやつらの報復やとにらんだ。その林が口封じのために強盗に見せかけて、下のもんにやらせたんやとな。
結局、飯島を殺したんは圭条会に雇われたチンピラやった。せやけど、そいつらは誰からの指示かは、よぅわからんっちゅうてな。
林が関与したことまでは突き止められへんかった。でも、絶対あいつや。あいつが殺させたんや、今でもわしはそう思っとる」

達也はファイルをめくっていった。

「その林っちゅうのはな、ヤクザに見えへんくらい、おっとりした優しい顔してんねん。
でもな、自分を裏切った奴は、とことん追い詰める、蛇みたいな男や。あいつに人間の血なんて通ってへん。女や幼い子どもまで殺させよって。
絶対捕まえたる、そう思うてきたけど、
情けないことに13年も進展なしや。
それにあと2年もせんうちに、わしも定年や」

桜井は禿げた頭を下げて、言った。

「加瀬、おまえには申し訳ないことをしたと思うとる。辛かったやろ、すまんかった。
奥さんの聴取に立ち会わせたんは、おまえと一緒にこの事件にケリをつけたかったからや。
新明亮二は圭条会の中でも大物クラスや。
そいつの名前があがってきたっちゅうことで、チャンスやと思うてな…」

「桜井さん…」

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