はぐれ雲。
「…そうか。因縁っちゅうのは、恐ろしいもんやな」

「ええ、全くです」

本当にその通りだ。

誰がこんな再会を予想できただろうか。

博子をめぐるこんな再会を…。


「こんなことを言ってはなんですが…」

遠慮がちに達也は口を開いた。

「かまへん、言うてみぃ」

「新明亮二を突破口にして圭条会を落とすのは難しいと思います」

桜井の反応をうかがうように、達也は一度口を閉じた。

「…続けぇ」

「僕が知る新明は、一途な男です。
大切なものを守るためには何だってするでしょう。あいつが家族同然の圭条会に、不利になる言動をとるはずがありません。それに彼は頭がいい」

桜井の刑事としての目が、そう言い切った達也を見る。

「もっとも、未熟な刑事の勘なんですが」

大口をたたいてしまったな、とふっと彼が笑ってそう言うと、桜井もつられて笑った。

そして、地肌の見えた頭をパチンと一つ叩いた。

まるで、その場の重苦しかった雰囲気を一掃しようとするかのように。

「なぁ、加瀬。おまえかて、大切なもんを守るためなら何だってするやろ?新明も、奥さんも一緒やで」

「……」

「奥さんなりに、おまえを守りたいと思うてる。実はわしのところにも来てなぁ。悪いのは全部自分やから、おまえを刑事から外さんといてくれって。そりゃあ、もう必死やった。離婚、考えてるみたいやったで。おまえが刑事でおれるんやったら、って」

「……」

「よう考えや、な?」

桜井は若い部下の頭にそっと手を置いた。
まるで我が子を励ますかのように。

「わしはおまえに刑事であってほしいと思うてる。そのためなら、できることは何でもしたる。
せやけど、決めるんは、おまえや」

「…はい」

桜井は立ち上がると、かすれた口笛を吹きながら、暗い廊下を歩いていった。

長椅子に残されたファイルを、達也は手に取った。

パラパラとめくってみるが、内容が頭に全く入ってこない。
「くそっ」

一度床を強く蹴った。

<新明亮二、どうしておまえはこんな世界に足を踏み入れた。一度でも入ってしまえば、後戻りできないことくらい、おまえならわかっていたはずだ。博子を愛してたなら、どうして…>


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