はぐれ雲。
やっとの思いで、達也が博子を岸に引き戻した。

二人とも、全身ずぶぬれだった。

力尽きて座り込む妻に、達也は肩で息をしながら怒鳴った。

「何を…!何を考えてるんだ!!」

「……」

「なんでこんなこと!」

「……」

彼は濡れて重くなった上着を脱ぐと、地に叩きつけた。

「答えろ!博子!!」

放心状態だった彼女が、突然達也を睨むように見上げた。


「私なんて死んだほうがいいのよ!生きていても、みんなを不幸にするの!新明くんも、あなたも、真梨子も、みんなみんな不幸になるのよ!」

「そうじゃないだろ!」

達也は博子のそばで膝を付いた。

「そうじゃないよ、博子」

彼女の濡れた髪に優しく触れる。

「死にたいの、お願い、達也さん…。辛いのよ、私。新明くんの命を奪ったのは私よ。
私と関わらなければ、生きていられた!
私が殺したも同然よ!
その上、あなたを散々傷付けてきた。
こんなに優しいあなたを、私は…!
今もこうやって、傷付けてる。
一生その罪を背負って生きていかなければならないと思うと、もう耐えられない…」

「博子」

「お願い、私のことを想ってくれるなら…」

博子は達也にしがみついた。

「最後のわがままよ…死なせて」

髪からポタポタと水滴が顔に落ちる。

「だめだ」

彼の切ない顔が横に振られる。

「お願い、死なせて!」

彼は強く抱きしめた。

「それだけはできない!
君はただ、新明のところに行きたいだけじゃないのか!ただ、あいつに会いたいだけじゃないのか!」

一瞬彼女の息が止まり、胸の中で何かを言おうとする気配がした。

「答えなくていい!!」

咄嗟に抱きしめた達也の腕に、力が入る。

「…答えなくていい。
たとえそうであっても、そうでなくても、俺は許さない。死ぬなんて、絶対に許さない」

そして、きっぱりと言い切った。

「新明には会わせない」と。


博子が達也の胸から顔を上げた。

「それに、君は彼が死んだのは自分のせいだと思ってるんだろ。だったら亡くなった命に、逃げずに向き合うんだ。俺に言ったじゃないか、そうしろって。今の君は、ただ逃げてるようにしか見えない」
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