はぐれ雲。
「……」

「新明に申し訳ないと思うのなら、生きて償うんだ。俺に少しでも悪いと思うのなら、一生俺のそばで生きていくんだ」

「でも」

「死ぬなんて、君が楽になるだけだろ。そんなの卑怯だ」

博子は顔を歪めると、達也の手を振り払った。

「私、あなたのそばにいるって約束したのに、もう離れないって誓ったのに、彼がいなくなったと知った時、何もかも終わった気がした。やっぱり私は…」

達也はもう一度彼女を抱き寄せた。

聞きたくなかった。

わかっていたが、博子の口から新明亮二のことを「愛してる」と、それだけは聞きたくなかった。

博子は彼の胸から逃れようと抗う。

「もうやめて!こんな女に優しくしないで!あなたを裏切ってばかりいるのよ!」

「博子!」

力強い腕が、それでも博子を抱き寄せる。

「それでもいい、そばにいてほしいんだ。
君が新明を想う日があってもいい。
新明のために涙を流す日があってもかまわない。それが君だというのなら、俺はその全てを受け入れる」

彼女の動きが止まった。

「そんな!どうしてそこまで!」

彼は博子を壊れそうなくらい、強く強く抱きしめた。

「もう、やめて…」

「俺には君が必要なんだよ。君を…」

「言わないで!お願いだから!それだけは言わないで」

そう、これだけはもう彼に言わせてはいけない。

彼女は達也の胸を掌で打った。

「言わないで…」と。

何度も何度も。

それでも達也は心からこう告げた。

「愛してる。君を愛してる」と。


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