はぐれ雲。
「どうして…」

嗚咽が漏れる。

それがだんだん大きくなって、いつしか悲鳴のような泣き声に変わった。

「…明くん…新明くん!」


達也は博子の濡れて冷たくなった髪に頬を寄せ、苦しそうに瞳を閉じた。

<博子。
君にかけてやる言葉なんて、俺には到底見つからないよ。だから今夜は泣きたい分だけ泣けばいい。あいつのことだけを想えばいい。あいつのためだけに、泣けばいいよ>

泣きじゃくる博子を、達也はただ黙って包み込んだ。

<新明、見てるか?
おまえはどうして、好きな女をこんなに泣かせるんだ。とことん、俺は悔しいよ。
博子は自分でも気付きもしないほど、強くおまえを愛していた。
だからおまえの後を追おうとした。
だけど、それだけは俺が許さない。
俺だって博子を愛している。
その気持ちは、おまえに負けたとは思っていない。だから渡さない、絶対に。
それに…それに新明。
博子がおまえのところに逝ってしまったら、俺は一生、やり場のない嫉妬に苦しまなきゃいけないだろ。それだけは勘弁してくれよ。
…しばらく博子を俺に預けてくれないか。
いつかおまえに返す、その日まで…
頼むよ、新明…>


星が何度か瞬いたのを、達也ははっきりと見た。

亮二が「わかった」とでも言ったのだろうか。

それは誰にもわからない。

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