はぐれ雲。
桜井が考え込むように、廊下の長いすに座っている。
「飲みませんか?」
達也は温かい缶コーヒーを差し出した。
「おう、すまん」
「お隣いいですか?」
「おお、座れ座れ」
桜井は丸い尻を上げると、席をあけた。
「城田が言ってた前田という男に、何か心当たりでもあるんですか?」
達也の質問に答えぬまま、黙って桜井は缶コーヒーを開けて飲む。
彼が話し出すまで待とう、達也はそう思った。
城田蓮が首筋にキズがあるといった時の、桜井の強張った顔が気になったのだ。穏やかな彼には不釣合いな表情に思えたから。
自販機のジーッという音以外に何も聞こえない。
しばらくの時が流れた。
達也はすでに缶コーヒーを飲み干していた。
時折、その缶に目をやる。
途端に、桜井が重い口を開いた。
「林哲郎の左首筋にも、同じようなキズがあるねん」
「え?」
「城田が言うとった話を聞いてても、前田っちゅう男は林やないかと思えて仕方ないんや。几帳面やったことといい、おっとりした顔に似合わん鋭い目ぇといい…」
「じゃあ、新明亮二殺害に林が関与していると?」
「新明の行動を把握して、城田に逐一伝えてる。カタギの人間には難しいこっちゃ」
「でも林にとって、新明は兄弟の契りを交わしてますよね」
「ダム建設の受注で一悶着あったやろ。あれで新明は責めを負うたらしいんや。
湊川リサの件もあったからなぁ、そこで林は新明を切った。あいつは非情や、兄弟の契りを交わしてても都合が悪くなれば、ポイッや。そやけど、幸運にも圭条会五代目総長の神園昭吾が新明に目をつけて、そばに置いとったっちゅう噂があったんや。もしそれがほんまなら、切り捨てた男が思わぬ出世や。林の性格からして、それは許しがたいことや」
「それが理由で…」
「たぶんな。でも証拠がないんや。城田に殺人を教唆したっていうな」
桜井は生ぬるくなったコーヒーを流し込んだ。
悔しそうな、辛そうな顔をして。
城田蓮の自宅アパートの部屋から押収した物の中に、前田から渡されたという現金を入れた封筒が見つかったが、レン以外の指紋検出までには至らなかった。
「指紋をつぶすくらい、あいつにとっては何でもないことや」
彼のため息にも似た吐息が、その場の雰囲気を一層暗いものにした。
「飲みませんか?」
達也は温かい缶コーヒーを差し出した。
「おう、すまん」
「お隣いいですか?」
「おお、座れ座れ」
桜井は丸い尻を上げると、席をあけた。
「城田が言ってた前田という男に、何か心当たりでもあるんですか?」
達也の質問に答えぬまま、黙って桜井は缶コーヒーを開けて飲む。
彼が話し出すまで待とう、達也はそう思った。
城田蓮が首筋にキズがあるといった時の、桜井の強張った顔が気になったのだ。穏やかな彼には不釣合いな表情に思えたから。
自販機のジーッという音以外に何も聞こえない。
しばらくの時が流れた。
達也はすでに缶コーヒーを飲み干していた。
時折、その缶に目をやる。
途端に、桜井が重い口を開いた。
「林哲郎の左首筋にも、同じようなキズがあるねん」
「え?」
「城田が言うとった話を聞いてても、前田っちゅう男は林やないかと思えて仕方ないんや。几帳面やったことといい、おっとりした顔に似合わん鋭い目ぇといい…」
「じゃあ、新明亮二殺害に林が関与していると?」
「新明の行動を把握して、城田に逐一伝えてる。カタギの人間には難しいこっちゃ」
「でも林にとって、新明は兄弟の契りを交わしてますよね」
「ダム建設の受注で一悶着あったやろ。あれで新明は責めを負うたらしいんや。
湊川リサの件もあったからなぁ、そこで林は新明を切った。あいつは非情や、兄弟の契りを交わしてても都合が悪くなれば、ポイッや。そやけど、幸運にも圭条会五代目総長の神園昭吾が新明に目をつけて、そばに置いとったっちゅう噂があったんや。もしそれがほんまなら、切り捨てた男が思わぬ出世や。林の性格からして、それは許しがたいことや」
「それが理由で…」
「たぶんな。でも証拠がないんや。城田に殺人を教唆したっていうな」
桜井は生ぬるくなったコーヒーを流し込んだ。
悔しそうな、辛そうな顔をして。
城田蓮の自宅アパートの部屋から押収した物の中に、前田から渡されたという現金を入れた封筒が見つかったが、レン以外の指紋検出までには至らなかった。
「指紋をつぶすくらい、あいつにとっては何でもないことや」
彼のため息にも似た吐息が、その場の雰囲気を一層暗いものにした。