はぐれ雲。
トレイの上にカレーライスをのせて、達也が寝室に入ってきた。サラダまでついている。

「キャベツの千切りって難しいんだね」と言って、笑いながらこめかみをかいた。

学生時代と変わらないその癖。

「ううん、上手にできてる」

お世辞にも千切りとは言えなかった。
短冊切りといったほうが正しい。

「カレーなら、ルウがあるだろ?味付けに失敗する確率が断然低いから、カレーにしたよ」

そう言って笑う達也の顔を、博子は真剣な面持ちで見つめた。

「あ、カレーじゃないほうがよかった?」

「ううん、とってもおいしそう。ありがとう、達也さん」

彼女は首を横に振ると、もう一度まっすぐ彼の目を見た。

「あの…もしあなたが私に嫌気がさしてるなら、遠慮なく言ってほしいの」

「何を言って…」

「あなたが優しくしてくれると、辛くて…」

「…重荷だってこと?」
彼の顔が曇る。

「違う、そうじゃないの」

「じゃあ、なんで」

「どうして私を責めないの?」

「え?」

「いつもいつもあなたは私のために自分の気持ちを押し殺してる。どんなに傷付いても、苦しくても、決して本心を言わない」

「……」

「あなたの胸で、他の人を想って泣くような女なのよ、私」

「……」

「私をもっと責めてよ、もっと罵って。あなたのありのままの気持ちを、もっとぶつけてほしいのよ」

「…博子」

「何もかも許されるなんて、思ってない。でも、あなたがそうしてくれることで、私も少しは救われるの。だから、私をもっと責めて…」

「何を言い出すのかと思えば」
呆れたように達也は長い息を吐いた。

「熱いうちに食べたほうがいい」
そう言って、スプーンを彼女の右手に握らせた。

「甘口だから」

「…達也さん」

「いいか、博子」

白いご飯から立ち上る湯気を見つめながら、彼は穏やかに、そして決意を込めたように言った。
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