はぐれ雲。
桜井と達也は鑑識に来ていた。

先週近くの山で、トランクに入れられた女性の遺体が発見された。

トランクは地中に埋められていたようで、季節はずれの大雨で地盤が緩み、小規模な土砂崩れを起こした際に出てきた。

中には全裸の20~30代と見られる女性。身長は160~170センチで、腐敗が進んでおり、死後2ヶ月近くたっていると思われた。

身元がわかるものは何もなく、遺体に付着していた微量の体液が彼女のものではなく、別人のものと判明した。

遺体が入れられていたスーツケースからは、いくつかの指紋が検出されたが、誰のものであるかまでは特定できなかった。
またスーツケース自体大量に出回っているもので、そこから犯人を特定するのは難しい。

まずは遺体で発見された女性が誰なのか、それを突き止めねばならない。

鑑識で何か新たにわかったことはないか、そう淡い期待を胸に彼らは足を運んだところだった。
案の定何の収穫もなくがっかりした矢先に、達也は捜査三課に配属されている交番勤務時代の後輩を見つけた。

「久しぶり」
背後から声をかけた。

「あ、加瀬さん!お久しぶりです!例の事件ですか?」

「そうなんだ、なかなか思うように手がかりが見つからなくてな」

達也は後輩刑事が睨むように見ていたパソコンに目をやった。

「監視カメラ?」

「そうなんですよ。あるホテルで窃盗事件が相次いでて。それで不審な人物がいないか、確認中なんですが、こちらもなかなか…」

乱れた髪をさらにクシャクシャとかき乱して、彼は苦笑いした。
そのホテルは、各階のエレベーター前に一台監視カメラを設置していたが、盗難が相次いだため、つい最近になって客室とエレベーターをつなぐ廊下の中程にも新しくカメラを二台設置したという。

画面には、客が自分の部屋に向かって歩いていく様子が映し出されている。
最近つけられた方のカメラ映像のようだった。

「…ちょっと!」
達也はたまたま流れた画像に興味を示した。

「今のところ、少し巻き戻してくれないかな」

「え?…はい」

後輩刑事はきょとんとした顔で、とりあえず言われた通りに画像を戻す。

「ストップ!」
彼の言葉通りに、画面は微動だにしなくなった。

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