はぐれ雲。
林は再度辺りを見回して中へ入る。あいにく、先客の顔はわからなかった。

「ちょっと、これ巻き戻してくれへんか?あいつより先にこの部屋に入った人間が映ってるところ、出してくれへんか。あと、他の監視カメラの映像があれば、それも見せてくれるか」

「すまない、お願いしていいかな」
達也は後輩に手刀を切って、片目をつぶった。

「は、はい、わかりました」

彼はもう一台のパソコンにエレベーターホール前に設置された監視カメラの映像を出した。そして気合を入れた顔つきでパソコンの前に座ると、マウスに手を置く。

なんせ、両側をベテラン刑事と先輩刑事に挟まれているのだから。

マウスのカチカチッという軽い音が、何回か続く。

そう時間はかからなかった。
廊下の監視カメラには、一人の女が問題の部屋に入っていく様子が映っていた。

「あー、これですね。でも、これって…」
後輩は気まずそうに達也を見上げた。

「…青木真梨子、僕の大学時代の後輩です」


三人は監視カメラの映像を見続けた。
真梨子が部屋に入った直後に、林がやってくる。
それから約一時間後、黒いスーツケースを持った男が二人、その客室のドアの前に立つ。
しかしチャイムを鳴らすわけでもなく、辺りを気にしながら何かを待っているようだった。

ふいに林たちのいる部屋のドアが開くと、なだれこむようにふたりの男は中へ入る。

桜井と達也は二人の持っていた黒いスーツケースに釘付けになった。

今回発見された女性の遺体が淹れられたスーツケースとよく似た色、形をしている。

画質が荒く、はっきりそうとまでは言えないが、達也たちは何かを感じていた。

男たちが部屋に入ってしばらくすると、林が出てきた。
ここでも辺りを警戒する。

誰もいないことを確認すると、エレベーターホールへと向かう。


彼らはもう一台のパソコンで、エレベーター前の監視カメラの映像を確認する。

林はエレベーターの前ではうつむき、顔を隠すようにしきりに鼻を触った。

明らかにカメラを意識した行動だ。

「なんや、ここのカメラの前だけ…」

桜井の言いたいことを察知したのか、若い刑事は言った。

「廊下の監視カメラは、この映像が撮られる直前に設置されたものだと、聞いています」


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